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岡山地方裁判所 昭和50年(ワ)184号 判決 1977年10月03日

原告

沖中繁一

ほか一名

被告

岡山市

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、各一五〇万円及びこれに対する昭和五〇年四月二三日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  本件事故の発生

訴外沖中清雄(以下単に清雄という)は、昭和四五年一一月二二日午後二時ごろ、岡山市並木町一丁目四〇番地先の市道上をオートバイに乗つて北進中、道路のくぼみにオートバイのハンドルをとられ、道路左側に停車中の普通貨物自動車に衝突し、頭蓋底骨折、脳挫傷の傷害を受け、右傷害のためそのころ死亡した。

(二)  被告の責任

右に記載したとおり、清雄が通行しオートバイのハンドルをとられた地点は、十一番川に架設された橋とそれに接続する道路との境で、その境目に沿つた道路部分に幅約二〇センチメートル、深さ約一五センチメートルのくぼみ(段差)が存した。

被告は右道路の管理者であるが、道路管理者としてはかかる場合右くぼみを速やかに修理し、修理するまでの間は道路標識を設置する等して交通の危険を防止すべきであつたのに、それらの措置をとらず放置していた。

以上の事実は道路の管理の瑕疵というべきであるから、原告らの国家賠償法一条により被告に対し、本件事故により蒙つた損害の賠償を求める。

(三)  本件事故により清雄は、次のような損害を被つた。

1 逸失利益

清雄は死亡当時満一八歳の健康な男子で、共石丸紅株式会社経営の岡山市内のガソリンスタンドに勤務していた。

同人が生存して同社に勤務した場合の得べかりし年間所得は左のとおりである。

昭和四六年一月一日から同年末まで

給料 五四万円

賞与 一五万円

昭和四九年一月一日から同年末まで

給料 一〇二万円

賞与 四〇万円

従つて昭和四六年から三年間の年収は六九万円、昭和四九年以降の年収は一四二万円、その間の生活費を二分の一とし、六七歳まで稼働可能であるから就労可能年数四九年として、ホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すると、その得べかりし利益の現価は一六三三万四六五〇円となる。

2 慰謝料

清雄の慰謝料としては三〇〇万円が相当である。

(四)  原告らは清雄の父母であり、清雄が昭和四五年一一月二二日死亡したため、同人を相続した。

(五)  原告らは、被告が以上の損害賠償金を任意に支払わないのでやむなく原告訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任した。その費用は八〇万円であり、これも本件事故により蒙つた損害である。

(六)  以上のとおりで原告らの損害は清雄の逸失利益と慰謝料の合計額一九三三万四六五〇円を原告らが相続分に応じて相続した各九六六万七三二五円と弁護士費用各四〇万円を合計した各一〇〇六万七三二五円であるが、原告らはそのうち各一五〇万円及び弁済期の経過した後である昭和五〇年四月二三日から右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

(一)  請求原因(一)の事実については、事故発生場所の道路にくぼみがあつたことは否認する。清雄の本件交通事故の態様および同人の傷害の部位・程度は知らないが、その余の事実は認める。

(二)  同(二)の事実については、被告が本件事故現場の市道の管理者であつたことは認めるが、その余の点はすべて否認する。

本件事故発生当時、事故発生場所の十一番川架設橋梁の取付道路部分には、何らくぼみ(段差)はなく、被告の道路管理に瑕疵は存しなかつたものである。

本件事故発生以前に本件橋梁南側の取付道路部分の中央よりやや東寄りにくぼみが存し、かつ若干の段差があつたので、被告は昭和四五年一〇月二一日訴外山陽道路株式会社に右段差の舗装修繕工事を請負わせ、右訴外会社は同月二二日に着工し、同年一一月一一日完成したもので、被告において同月一八日工事検査をなし、道路に異状のないことを確認している。

(三)  請求原因第三項の事実については、清雄が死亡当時満一八歳であつたことは認めるがその余の事実は知らない。

(四)  請求原因第四項の事実は認める。

(五)  請求原因第五項の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和四五年一一月二二日午後二時ころ、岡山市並木町一丁目四〇番地先の市道において交通事故が発生し、右事故のため清雄が死亡したことは当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第九号証の一、二、乙第一一、一二号証、証人森重隆行、同氏房進、同佐藤雅男の各証言及び前記争いのない事実を総合すると、

(一)  清雄は昭和四五年一一月二二日午後二時ころ、岡山市並木町一丁目四〇番地先の市道をオートバイに乗車して時速約一〇〇キロメートルで北進していたが、突然オートバイもろとも一ないし一・五メートル飛び上がり、左右に大きくふらつきながら約二七メートル進行して横転し、更に横転したまま飛ぶような速さで約四三・五メートルひきづられて前進し、折柄右道路上を南進していた普通貨物自動車を運転していた訴外氏房進が右事故を目撃し、危険を感じて咄嗟に急停止したところに激突したため、オートバイは火花がガソリンに引火して燃えあがり、清雄は頭蓋底骨折、脳挫傷の傷害を受け、このため同日午後二時二〇分ころ死亡した。

(二)  右道路は児島湖方面から洲崎方面に通ずるアスフアルト舗装された平坦で見とおしの良い道路で、幅員は約一三・二メートル、当時速度の制限はなかつた。

(三)  市道にほぼ直角に流れる川(川の名前は証拠上はつきりしない)の上は橋が架設され、橋梁部分は幾分小高くなつている。

(四)  清雄が前記のとおりオートバイもろとも突然飛び上つた地点は右橋の北詰の付近であつたと思われる。

との事実が認められる。証人佐藤雅男の証言中右認定に反する部分は前掲証拠と対比し措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  ところで原告らは右の橋と道路との境目部分が幅約二〇センチメートル、深さ約一五センチメートルの段差になつており、清雄のオートバイは右の段差にハンドルをとられたため横転し、本件事故が発生したと主張するので、この点について判断する。

(一)  証人福本行雄の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証及び同証言並びに証人岡本寿行の証言によれば、昭和四五年一〇月二一日被告は岡山市並木町一丁目の市道の一部の舗装工事を訴外山陽道路株式会社(以下山陽道路という)に請負わせ、右山陽道路は同月二二日右工事に着工し、同年一一月一一日に完成したこと、右工事の内容は本件橋と道路とのつなぎの部分が波状になつていたのでこれを平坦になるよう補修したうえ舗装することであつたが、右山陽道路はここをタツクコート(アスフアルトをくつつける油をまく)した上にアスフアルトを入れ、その上からローラーで転圧して平坦にしたこと、同月一一日に山陽道路から被告に工事完了届が提出されたので、当時岡山市総務局財務部調達課職員であつた福本行雄は同月一八日他の二名の職員と共に検査のため現地に赴いたこと、右検査の結果、本件橋の表面と取付けた補修部分は平坦になつており段差はなかつたこと、本件事故は右検査の四日後に起つたものであるが、通常完工後数日でアスフアルトが破損したり落ちこんだりして段差が出来ることはあり得ないことがそれぞれ認められ、いずれも事故直後の写真であることが当事者間で争いのない乙第九号証の三、第一〇号証の二、第一四号証の一ないし三、甲第九号証(乙第一四号証の三を拡大したもの)を総合して判断すると、本件橋の北詰とりつけ部分に原告の主張するような段差があつたことは認めることができない。

(二)  証人森神照子の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二ないし五及び証人佐藤雅男の証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証には、事故現場に段差があつたという記載があり、証人森重隆行、同佐藤雅男の証言中にも段差があつたとの供述があるが、前に認定した事実と対比すると、右文書の記載内容及び右証言は信用することができない。

(三)  また甲第五号証の一、二によれば本件事故現場に何らかの段差があつたようにもみられるが、甲第五号証の一、二には横断歩道の標示が写つているところ、成立に争いのない乙第一六号証の二によれば、横断歩道標示が設置されたのは昭和四七年三月であるので、甲第五号証の一、二はそれ以降に撮影されたものと考えられ(少なくとも原告の主張するように昭和四五年一一月二五日に撮影したものとは思われない)、結局これによるも本件事故当時現場に段差があつたとは認められないものである。

(四)  清雄が乗つていたオートバイが走行中突然一ないし一・五メートルも飛び上つたことは前認定のとおりであるが、このような状態が何によつて惹起されたのかは結局不明というの外はない。(清雄が右オートバイを前認定のように非常な高速で走行させていたことを考えれば、道路上に存する石とかその他の異物に乗り上げることによつてもそのような状態は起り得るのであり、そうすると本件の些か特異な事故の状況も即道路の瑕疵に結びつくものとは言えない。)

四  結論

以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく原告らの請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 浅田登美子)

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